"connecting the dots"ーーTOEICの結果を受け取ったみなさん、アップル創業者のスピーチを聴いてください

 1月13日に行われた第136回TOEIC公開テストの結果が届きました。



 一応990点ですが、下のABILITIES MEASUREDの欄を見ると100%に届いていない項目がありますね。つまり、いくつかの問題を間違えているということです。講師としては恥ずかしいことですが、このことからTOEICという試験の特性が理解できると思います。数問くらい落としても満点が出るのです。
 合計200問もの問題が出題されるTOEICでは、1問の重みは大きくありません。しかも、難しい問題だからといって配点が厚くなるということは一切ありません。どの問題も同じ比重です。目先の問題を確実に正解することではなく、リズムを崩さないこと(リスニングの場合)、全体に時間を配分すること(リーディングの場合)が大切です。わからない問題、悩んでしまう問題があったら、きっぱりあきらめてください。僕自身、リスニングのPart 3などでつまずきそうになったら直ちにヤマカンでマークして、次の会話の設問を先読みするようにしています(満点講師を名乗っていながら実は全問正解していないことは内緒にしておいてください)。
 法政大学エクステンションカレッジのTOEIC講座を受講された学生さんからは、大幅な得点アップを達成されたといううれしい報告をいただきました。10月の385点から、今回は610点に伸びたそうです。この方は4月に就職されるそうです。次の目標は800点とのこと。今後のご活躍を期待しています。
 また、ある個人的な友人は前回から110点アップして845点 *1を獲得したとのことです。彼は僕と同様に元登校拒否児です。非常に若い頃(18歳)からNGOに就職して10年間ずっと働き続けてきたために正規の英語教育は受けていません。ところが去年の4月から猛烈な勉強を始めて、驚異的なスピードで進歩してきたのです。彼の例は、中学・高校で必ずしも勤勉な生徒でなかった人でも大人になってから英語力を伸ばすのは可能であるということを実証していると思います。もちろん、粘り強い努力が最低条件ですが。
 有名大学生と元登校拒否児ーー対照的な二人ですが、実は共通点があります。受験直前に神崎正哉さんの『新TOEIC test「正解」一直線』をやっていたということです。


新TOEIC test「正解」一直線

新TOEIC test「正解」一直線


神崎さんはTOEIC対策の専門校エッセンスイングリッシュスクールでの同僚講師です。だからあまり褒めると身贔屓のようで格好がよくないんですが、TOEIC対策の問題集を買うとしたら間違いなくこの本が第一選択肢になると思います。
 ぜひ本屋で手にとってみてください。まず最初に気づくのが、デカイということです。この手の問題集には珍しく、B5版なのです。しかも300ページ以上。なのに、問題はフルテスト1回分(200問)しかありません。はっきり言って少ないです。
 デカイのに問題は多くない。この事実から、何がinfer*2できるでしょうか?
 もちろん、解説がたっぷりたっぷりついているということです。たとえばPart 5の場合、1問につき1ページの解説があります。
 そして、各問題のどの箇所に目をつけるべきだったのかということが、手書きで書き込まれています。さらに、単に正解を説明するだけではなく、応用的な知識が「スコアUPポイント」として全ての問題解説に付されています。これも手書きです。味気ないフォントよりも記憶に残りやすいのではないでしょうか。一言でまとめると、「隣りに神崎さんが座ってTOEICについて丁寧に語っているような気にさせられる本」です。
 本の最後には「必ず出る単語リスト 200」というオマケがあります。前回のTOEIC Part 5の講評でも書きましたが、単語はただ意味を覚えるだけではなくコロケーション(単語同士の相性のよさ)の知識をストックしていくことが重要です。『新TOEIC test「正解」一直線』の単語リストは通常の単語集にはない工夫がなされているので、この目的にうってつけです。
 上で紹介した法政の学生さんも、元不登校児の友人も、この本を得点アップの理由として挙げていました。
 さて、この二人からはうれしい報告をもらったのですが、残念な結果を受け取られた方もいらっしゃると思います。目標点に達しなかった。あるいはスコアダウンしてしまった。そんな方にぜひ見ていただきたいのが、下の動画です。iPodMacを世に出したアップルの創業者であるスティーブ・ジョブズの講演です。


日本語字幕付きのものがこちらにあります。)


 ジョブズは、おそらく全世界で最も成功している人物の一人でしょう。でもこれは自慢話ではありません。
 彼は、大学をドロップアウトしたこと、自らが創業した会社から解雇されたこと、癌の診断を受けたことについて語っています。面白いのは、ネガティブな出来事であるとしか考えられないようなことが、成功や幸福に結びついていることです。彼はconnecting the dotsという表現を使っています。「点と点を繋げる」ということですね。彼の人生では、たとえば大学を中退したという「点」と、Macを開発するという「点」が繋がりました。あるいは、会社から解雇されたことが、妻との出会い、つまり幸せに結びついたのです。もしドロップアウトしていなかったら、クビになっていなかったら、今の彼はなかったことになります。
 これだけだとよくあるサクセスストーリーです。ジョブズがスゴイのは、次のように語っていることです。

Of course it was impossible to connect the dots looking forward when I was in college, but it was very, very clear looking backwards 10 years later. Again, you can't connect the dots looking forward. You can only connect them looking backwards, so you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something--your gut, destiny, life, karma, whatever--because believing that the dots will connect down the road will give you the confidence to follow your heart, even when it leads you off the well-worn path, and that will make all the difference.


トランスクリプトhttp://slashdot.org/comments.pl?sid=152625&cid=12810404

 彼は、"you can't connect the dots looking forward"と言っていますね。つまり、現在の時点から、ある「点」が将来どんな「点」に繋がるかはわからないということです。逆です。彼は"You can only connect them looking backwards"と続けます。つまり、「結果」が出てはじめて「ああ、あの時はつらかったけど、そのおかげで現在の成功があるんだな」と実感することができるのです。
 TOEICのスコアが伸びないとつらいです。特に努力したのに成果があがらないとヘコみますよね。でもひょっとしたら、その逆境を耐え抜いた先に、思ってもみなかったような未来が待っているのかもしれません。ただしそのことは、今の自分にはわからないのです。"you can't connect the dots looking forward"というのはそういうことです。
 つらい、悲しい、しんどい。そしてしかも、将来は成功するかどうかということについては現時点では保証がない。
 でも、ジョブズは説きます。「信ぜよ」と。彼は"you have to trust that the dots will somehow connect in your future"と言っていますね。somehowは副詞で、「どういうわけか・どうにかして」という意味です。今の苦しい状態が輝かしい未来にどんなふうに繋がりうるかということは想像しがたいかもしれない。けれども、「どうにかして(somehow)点と点が繋がる」と信じるのです。そうすることがconfidence(=「自信」)を生み、違いをもたらします(make all the difference)。
 もちろん、信じたからといって報われるとは限りません。でも、ジョブズのスピーチが感動的なのは、彼が成功者となったからではないと思います。学校を中退した時、会社をクビになった時、癌の宣告を受けた時、彼は希望を失いませんでした("Don't lose faith")。そして彼はkept goingしたのです。逆境にあっても歩み続けていたということこそが彼の人生の輝きであって、結果的に成功したかどうかということはむしろ枝葉末節なのではないでしょうか?
 TOEIC Blitz Radioでご一緒したmasamasaさんは、残念ながらスコアが下がってしまったそうです。でも彼は、さっそく非常に冷静な自己分析をされています。毎日更新されるmasamasaさんのブログからは、前向きに英語学習を継続されていることがうかがえます。keep goingというのはこういうことかもしれませんね。もちろん最終的に成功するにこしたことはありません。masamasaさんが目標を達成されることを願っています。
 このスティーヴ・ジョブズのスピーチは最高の教材です。まずはトランスクリプトを印刷した上で、何度も聴いてみてください。わからない単語があったら辞書を引きましょう。そういう作業も、ひょっとしたらconnecting the dotsなのかもしれません。慣れてきたら字幕やトランスクリプトは なしで動画を再生しましょう。ぜひ音読もしたいですね。同じものを30回40回50回と聴いて音読するという練習を僕自身もかつてやってました。何よりも効果が実感できたのがこの作業です。そうすることによって英語を日本語に翻訳するのではなく、英語のまま処理するためのシステムが脳に構築されていきます。ぜひ今すぐに実行してください。

Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005


英語字幕付き動画


日本語字幕付き動画
http://applembp.blogspot.com/2008/01/blog-post_12.html


字幕なし動画


トランスクリプト
http://slashdot.org/comments.pl?sid=152625&cid=12810404

(上で紹介した『新TOEIC test「正解」一直線』には、以下に著者自身によるサポートページがあります。)
http://toeicblog.blog22.fc2.com/blog-entry-256.html




*1:昨日この記事を書いた時点では少し数字が間違っていました。正しくは735点から845点への得点アップです。

*2:infer = 「推量する」